世界的な企業が、SF映画で見てきたような技術の事業化に向けた工程表を公表するのを目にします。そこまでの明確なプランを持たない日本の企業でも、事業計画にオープン・イノベーション活動の推進を盛り込み、その拠点を開設する例をよく見聞きします。
ただその中には、新たな施設の建設を最初の活動成果とし、外部企業との協業やイノベーション人材の育成についてのプランの検討は後回しというケースも見られます。
メディアを通じて施設の名称と所在地をアピールしても、今後そこで実施する取り組みを国内外に継続的に周知できなければ、すぐに人々の関心を失い、協業の機会を大きく損なうでしょう。
また魅力的な未来ビジネスに取り組み始めたにもかかわらず、日本語のウェブページの片隅に簡単な図表とその事業の要約を掲載するだけという例も散見されます。希望する協業の相手や実施内容、相手のメリットなどについて言及しないのでは効果は限定的です。
その企業を熱心に調査している就職活動中の学生や投資家以外が、その情報に気づくこともほとんど期待できません。
多少は詳細な情報を掲載している企業の場合でも、そのページの下に問い合わせのための送信フォームがなかったり、窓口部門のメールアドレスが明記されていないケースもあります。
海外のスタートアップにすれば、こうした企業は外部から協業の機会が訪れるのを自ら避けているように見えます。
私が携わっているオープン・イノベーションの支援事業において重要なプレーヤーである欧州のスタートアップは、他の地域と比べて堅実で保守的な意思決定を下す傾向があります。たとえ日本企業が夢のある壮大なビジョンを語っても、事業化の具体的な根拠がないと関心を示しません。
そのような企業には次の3つの解決策が必要です。(1)施設の充実よりも、明確な活動プランの実行を優先する(2)活動の目的、ニーズ、希望する協業相手について具体例を継続的に情報発信する(3)活動に関心を持つ相手がすぐにコンタクトできる仕組みを作る。
繰り返しになりますが、日本企業は(2)と(3)を軽視する傾向にあると感じます。
またスタートアップとの対等な関係構築を意識することも大切です。例えばスタートアップとの最初の会議で、挨拶ついでに「御社のアイデアを聞かせてほしい」と聞くのはやめるべきです。
自らの手の内を明かさず、協業についての契約も結んでいない状況下でのこうした要求は「アイデアを盗みに来た」と誤解されても仕方がないからです。
これらの課題を解決するイノベーション部門を社内に設置する場合、対象技術の専門スキルや事業開発のスキルを持ったメンバーに加えて、マーケティング担当の人材がカギを握ります。
自社のウェブページで日本語/英語の動画や記事で活動内容を情報発信したり、定期的に国内外のスタートアップイベントに参加して具体的なアピールを行う専門的なスキルを持つ人材を選定したりするのです。
このほか外部からの問い合わせを選別して、速やかに対応する役割なども担います。
海外スタートアップの関心をつかむ情報発信によって将来の協業相手のインバウンド誘致に成功すれば、国内の競合他社に対して強い優位性を持つことができます。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発コンサルのSOPHYS(ソフィス)とグローバル事業開発支援のTrusted(トラスティッド)を東京で設立。
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