最近の日本企業は優秀な人材の確保に苦心しています。私がお会いする様々な業界の関係者からも「新規事業を任せる人材が社内に足りない」といった話をよく聞きます。それは優秀な人材が減ったからではなく、求められる優秀な人材の定義が変化したことが理由の一つだと思います。
国境や業種を超えた企業間の事業連携が進み、ビジネスの内容が複雑化しています。従来よりも複数の分野やノウハウについての専門性を持つ人材が求められるようになりました。
さらに、国や民間による創業支援策の拡大もあって、高度な専門性や企業経営についての大局観を持つ人材が、企業を離れて自ら起業するケースも増えています。
一方、社内に適した人材がいるにも関わらず、多くの時間を生産性の低い業務に従事させ、活躍の場を提供できていないケースもよくあります。こういった課題の解決策について短期、長期の視点で分析します。
まず、短期的視点です。既存のビジネスモデルやスタッフで業務に取り組むことを前提とすれば、IT(情報技術)ソリューションの導入により、ルーティンワークのうち生産性の低い業務を自動化することが必須です。
HR部門はスタッフの新たな業務の遂行に直接、間接的に必要なスキル習得の機会を提供します。それには、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できるマインドセットと創造性の育成を想定したトレーニングが適しています。
長期的視点では、変革されるビジネスモデルのもとで活躍できる人材を獲得する必要があります。例えば商社や金融業界はビッグデータやフィンテックの発達の影響を受けます。すでに、有望なスタートアップ企業への投資や、人工知能(AI)による顧客情報解析を活用したソリューションサービスなどを収益源とするビジネスへの移行が始まっています。
そこでは、未知のビジネスチャンスを察知して将来性を見極めて投資する「目利き力」が、新たな人材に求められる重要な要素となります。そのような人材の採用は世界が対象です。
そして、採用した人材のモチベーションを維持するためには、期待する目標と成果について上司がコーチングを含めたフィードバックを頻繁に提供する必要があります。十分な金銭的インセンティブを付与することも欠かせません。
私が交流を持つ優秀な海外出身のビジネスパーソンの中には、日本企業で働いていた際に外国人だからという理由で、会社から期待されたはずのスキルとは無関係の翻訳を伴うペーパーワークばかりを任されたという人がいます。
自身のスキルにもとづいた業務改善のアイデアを提案する機会も与えられず、モチベーションが下がって短期間で転職するといったケースは珍しくありません。
私は若い優秀な人たちが仕事を選ぶときには、必ずしも高いインセンティブに固執していないと感じています。より創造的な活動を通して社会に貢献できることをモチベーションにしているのではないでしょうか。
企業は将来的に経営理念やHRマネジメントの手法に加えて、日々働くオフィス空間のデザインなども含めてスタッフの余計なストレスを軽減させ、創造的で自由な仕事の進め方を実現できる環境を提供することが必要だと思います。
ウズベキスタン出身。サマルカンド国立外国語大学で英語・日本語言語学を修了。人材開発・人事システムコンサルのSOPHYS(ソフィス、東京・千代田)を設立、日本や外資系の企業の人材育成を手掛ける。
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