日本企業は海外のグローバル企業に比べて決断が遅いというのが定説になっています。確かに私が国内外の企業に対してビジネスを提案しようと打診すると、付き合いのまったくなかった海外企業がすぐに反応し、最初のミーティングから先方の意思決定者と直接的な交渉に入ることがよくあります。
その一方で、順調だった商談が「社内の方針が変わった」という一言で急に打ち切られることも何度か経験しています。日本企業はひとたび決断すると、高品質のプロジェクトを組織的に推進して迅速に完了させる手腕に優れています。
このことからも、決断のスピードだけで企業の競争力を判断するのは適切でないと思います。とはいえ、厳しいグローバル市場で最終的に生き残るためには迅速に意思決定する必要があるのは言うまでもありません。
しかも、企業規模やプロジェクトの期間、利害関係者の影響力などを考慮しながら、未知の環境での活動についてリスクの大きさを評価する必要があります。
私は日本企業の決断が遅い要因としてよく挙げられる合議体制や前例主義による意思決定、組織のメンツを守る意識などの背景には、海外に比べて失敗を過度に怖がる心理があると考えます。
新しいビジネスを展開するためには、失敗を恐れすぎずに、速やかに決断できる人材が不可欠です。そしてそういった人材には次のような要素が必要です。
まず、さまざまな分野から得た知見にクリエイティブな発想を加味して、将来の予測についての斬新なストーリーを作ることができる能力。そして、協働するメンバーがそのストーリーを理解し、共有できるように具体的な言葉で伝えることができる能力です。
さらに、組織の暗黙の常識にとらわれて埋没することのない異色のマインドセットを併せ持つこと。実務的な観点からは、新しい技術についての理解の速さやIT(情報技術)リテラシーの高さも欠かせません。このような個性的な人材を育てるには、従来とは異なるアプローチが必要になります。
例えばトップマネジメント層とHR部門が共同で、ごく小規模のプロジェクトを多数管理し、社内の若い世代のメンバーを責任者に抜擢します。プロジェクトがメンバーの専門分野との関連性がほとんど無いことが望ましいと思います。
そして、主に社外ネットワークを活用しながら、常識にとらわれずに取り組むように指示します。新たな経営資源やノウハウ、マインドセットなどの価値の創出・醸成といった中長期的な恩恵を会社に与えることを成果目標とします。一定水準の会計的な損失は許容し、評価はトップ・マネジメント層とHR部門が行います。
このほかにも、過去にスタートアップの起業または経営に携わり、失敗した経験を持つ人材を社外から採用し、多数の社内メンバーと関わり責任のある役職に任命することも有用です。
スタートアップをある程度まで成長させたものの、環境の変化によって退出を余儀なくされた人々が持つ知見は、決断力を養うためにとても多くの示唆を含んでいるからです。
そのような人材にも門戸を広げることは、新たな挑戦やリスク・テイクに前向きな姿勢を社内外に示すことになり、会社のマインドセットが革新されます。
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